物質をナノメートルサイズまで小さくすると、量子効果が顕著に現れます。特に、カーボンナノチューブや原子層半導体といった、原子数個分の厚さしかない極限的なナノ物質では、その影響は一層際立ちます。例えば、典型的な半導体では室温以下でしか観測されない「励起子」と呼ばれる量子状態が、2,000 K 以上に加熱された単一のナノチューブで観測され(Nishihara et al., Nature Commun. 2018)、高温におけるナノ物質の光学特性、すなわち「熱光物性」が注目を集めています。この「熱光物性」の解明は基礎科学として興味深いだけでなく、高温発光制御といった高温フォトニクス(Nishihara et al., Nanophotonics 2022)などの工学分野への応用にも繋がると期待されています。当研究室では、単一ナノ物質やその集合体における熱光物性の解明と、それを応用した機能開拓を両輪として研究を進めています。
<aside>
*は筆頭or責任著者論文です。
</aside>
Huge exciton binding energy of carbon nanotubes membrane
単層カーボンナノチューブの集積体は、次世代の光機能材料として期待されています。しかし、その光学特性を決定づける「励起子束縛エネルギー」が、集積状態でどの程度の大きさになるかは不明でした。本研究では、高純度なナノチューブ薄膜を作製し、二光子励起発光分光を用いて、薄膜状態でも束縛エネルギーが0.26 eVに達するほど巨大であることを明らかにしました。これは、チューブ特有の構造に由来する低い中赤外誘電率によるものであり、集積体においても励起子特性が大きく損なわれずに維持されることが分かりました。この成果は、高温で動作する光デバイスの実現に向けた重要な指針となります(図面は)。
Z. Liu, T. Nishihara*, V. Perebeinos*, Y. Miyauchi* ACS Nano 2025. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.5c14988

Copyright © 2025 The Authors. Published by American Chemical Society
Coalescence of carbon nanotubes whilepreserving the chiral angles
グラファイト性ナノカーボン分子を原子レベルで正確に合体させることは、sp²炭素化学における最も困難な課題の一つです。本研究では、同じ構造(キラル指数 (n, m))を持つ二本のカーボンナノチューブが、1000℃未満の熱処理によって、元の構造(キラル角)を保ったまま一本の太い(2n, 2m)ナノチューブへ効率的に融合することを発見しました。最も効率的なケースでは、この(2n, 2m)ナノチューブが最終試料の約20~40%を占めるほど高収率で得られ、融合によって生じた新たな光吸収ピークも観測されました。この反応効率はナノチューブの構造に強く依存することから、炭素-炭素結合の切断と再結合が順次進行するというメカニズムが示唆されます。これらの知見は、大径ナノチューブを構造的にねらい通りに合成する技術や、ナノチューブ集合体の特性を後処理で改質する技術への新たな道筋を開くものです。